美容医療において重要な法的観点:期待権について考える

こんにちは、くらげプロです。

医療において医療裁判というのは常に気にかかるところです。もちろん明らかな過失によるものであれば責任を負うべきですが、近年は微妙な経緯であっても裁判の話を聞きます。

裁判とまではいかなくても、中立的な第3者に入ってもらいながら解決を目指す医療ADRというものもあります。

いずれにしても、患者さんとの衝突は非常に消耗します。ちょっとした不満やクレームなどは日常茶飯事でしょう。また往々にして、細かい不満は医師よりも看護師や受付などのスタッフに不満をぶつける患者さんが多く、皆が疲弊します。

最近は、医療におけるリスク等の事前説明は相当重要視されています。それは大事ですが、それだけでは医師患者関係の構築に十分ではありません。

なぜ問題が起きるのか、結論としては「期待と現実とのギャップ」です。期待に見合う結果が得られなかったということは裁判においても、『期待権の侵害』と言われます。

今まで、この『期待権の侵害』は死亡や障害といった案件で述べられてました。その場合は、患者さんからの期待が高すぎるとかではなく、医師の説明が不十分で結果が想定の範疇を超えているという文脈で出てきた法律用語です。

しかし、この汎用性の高い言葉は今後適用範囲が広がると予想されます。今回は、特に美容医療において考えてみます。

医師の説明責任とは

まず、医師から患者さんへの説明事項としては

  • 病名と病状
  • 治療方法・内容
  • その治療に付随する危険性
  • ほかに選択可能な治療がある場合はその内容と利害得失
  • 予後

一般的な医療説明でも上記のことが必要とされています。

説明責任の美容医療における特殊性

そして、美容医療の場合は通常の医療と比べて、緊急性や医学的必要性(適応性)に乏しいことから、通常の説明よりも詳しい説明を求められることが多いと解釈されます。さらには、書面を交付するだけでは説明を行ったことにはならないとされることにも注意が必要です。

裁判例において、審美的・整容目的での治療では

  • 通常の治療の場合以上に治療結果や合併症、副作用などリスク、他の治療法の選択肢を説明すること
  • 判断するに十分な熟慮期間を提供すること

患者が上記の情報を提供されて、自ら選択するというのが説明責任つまりインフォームド・コンセント(IC)が適切になされていたとみなされます。

そして、ICが適切になされていない場合、医師に説明義務違反があったかどうかと問われるのです。

期待権とは?適用範囲拡大は脅威!

期待権という法律用語があります。


医師の過失と死亡または後遺障害という結果との間に因果関係が認 められないとしても、…期待権が侵害されたとして慰謝料の賠償請求を認容する裁判例があります。期待権とは患者が医師から医療水準にある適切な治療を受けることを期待する権利と定義づけられており、期待権侵害論の根本にあるのは「医師は、患者のために最善を尽くすべき義務がある」という考え方です。


日医総研 Annual Report 2005 第 1 号

このように本来は期待権は死亡や後遺障害と言った裁判例に使用されていることがほとんどですが、美容医療に鑑みるととても汎用しやすい言葉です。

なぜなら、美容医療契約は、他の診療におけるものよりも一層「結果」が重視されており、通常の医療における準委任契約のみならず請負契約的性格の強い契約と解される可能性があります。

実際、京都地判昭51年10月1日判タ348号250頁において、腫瘍摘出のための診療契約を「その性質はその目的が明確である点よりして請負の要素の強い準委任契約とみるのを相当と」しているのです。

また、期待した程度の結果が得られなかったとされ、「結果」は患者にとって「結果的に無価値」であったとして、医師の説明義務違反と相当因果関係にある損害として、手術費・医療費・慰謝料などが認定された例もあります。

この点、結果が内容通りに実現されないときには、債務不履行責任あるいは不法行為責任を追及できる可能性があることになります。

これらの医師の説明義務違反によって患者の自己決定権侵害あるいは治療の選択の機会を失ったことを損害と考えるのみならず、説明義務を尽くしていれば治療を受けなかったとされる損害を含める場合もあります。

美とは主観的な要素が多分に含まれるため、本人の主張のみで「結果」が伴ってないと判断されるわけではありません(そのような裁判例もあります)。しかし、高すぎる期待のまま施術をすることが問題になると解釈される可能性はあります

美容は期待が高すぎる患者さんが多い

美容医療ではしばしば治療に対する期待値が高すぎる患者さんがいます。
例えばこのようなことを言われることがあります。

  • レーザーを当てたら完全にシミが無くなりますか?
  • その機械を当てたらこのしわやたるみはなくなりますか?
  • ○○回やれば効果は必ず出るんですよね?

、 そのような方に私が良く言うのは

「医療は魔法じゃありません。完全とか絶対とは言えません。人によって個人差はあるので、効かない場合もあります。およその人にはこれくらいの効果があります。」

往々にして、期待値が高すぎる(つまり勘違いしている)患者さんの期待値をしっかりと下げてあげることが、結果として患者さんの期待権侵害を防ぐことになるということです。

しかしながら、美容医療を提供しているクリニックのホームページではレーザー機器や医療機器、製薬会社の宣材写真をそのまま掲載しているところも少なくありません。これら宣材写真は当然ながら最高に効果が出てそうなっているわけです(さらには、加工してないと信じるのみです)。

実際はそのような効果出るかは怪しいものも少なくありません。少なくとも自験例のbefore-afterの写真を掲載してほしい。

そして、さらには「もっとも効果が出た場合でこうです」という注意書きが必要でしょう。「個人差があります」と説明・同意書に書かれていることは多いですが、個人差という言葉だと現状の法的解釈では問題ないでしょうが、患者の結果への期待は宣材写真のままで、期待値が減っていないことは不満やいずれ法的責任につながる可能性があります。

まとめ

医療の事前説明において、最近はリスクについての説明はちゃんとされることが当たり前になってますし、それは大事なことです。しかし、現実では、高い希望で頭がいっぱいの人の期待を現実味のあるものにすることも重要ですし、よほど大変です。

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