糖尿病悪化で夜勤制限しようとするも猛反発!

こんにちは、くらげプロです。

台風が関東直撃で大変ですね。みなさん、無事でいてくれて、被害が大きくならないように祈るばかりです。

私が住んでいる関西ですら、計画運休で予定していたことができなくなってしまいました。

さて、今日の話は、産業医として先日訪問した企業で起こったことです。

ある労働者の健康診断で糖尿病数値が悪く、面談して夜勤勤務の制限に言及したところ猛反発を食らってしまいました。

気持ちはわかりますが、私も立場上、事業者に対して意見を言わざるを得ません。なんぼ凄まれようと、主治医がどうの言おうと、目の前の健診結果に対しての意見を言うのが仕事なので。

ただ、産業医の意見はたかが助言と言っても、ある程度の客観性や相手に訴求する合理性があるに越したことありません。

しかしながら、臨床の医師と違い、産業医の就業判定の基準というのは、明確な判断基準がありません。当然、各々の労働者の勤務形態によっても異なるでしょうしね。

今回は、そんな産業医が労働者ともめた展開と、多少なりとも客観性のある資料について、お話しします。

まず、産業医についての情報

「産業医」ってまずご存知ない方もいらっしゃるので、補足します。

産業医とは会社と契約している医者で、

「労働者の健康維持や適切な職場環境などについて、専門的な立場から助言・指導すること」

を職務としています。ただ、近年産業医の在り方が問題となることが度々あります。

以前、問題のある産業医事案についてYahooニュースで記事になり、あまりに産業医の実情について的外れだったので反論したことがありました。この記事は我ながら秀逸です。

「クビ切りで会社に加担?問われる産業医」というYahoo記事はバランス感覚を欠く悪意のある記事です。私は産業医歴10年近く、計10社以上の産業医をしており、産業医の実情を交えて反論を行いました。

まぁ、一般に生活している人からも、ましてや医師という業種からも、あまりなじみのない職種なのは確かです。

そして、上記記事に書いてあるように、実際やっている産業医自身もあまり産業衛生に熱心なわけでも立場をわかってないこともあり、さらに現場を混乱させているという実情です。

そんななか、私は産業衛生を真剣にやるために大学院行って博士をとり、現在は臨床医も産業医もまじめにやっております(このブログでは投資関係の記事も書いてるし、まじめにやっているように見えないと思いますが)。

産業医って、あんたに制限する権利あるんか!?

さて、そんな産業医業務の一つに、健康診断の結果を見て、ご本人や事業者に意見を述べるということがあります。

先日行った契約先の企業で健診結果を見ていると、

HbA1c 10.3%

という数値が目に入りました。

HbA1cというのは糖尿病の診断基準や治療のコントロールの判断にも使われる指標です。

6.5%以上で糖尿病が疑われる基準になります。7%を超えてくると合併症の確率が高くなってきます。その合併症には脳卒中など命に関わったり、失明につながるものもあります。

数値が上がるほど合併症の可能性は高くなり、年齢などにもよりますが、7%未満にするというのが一つの治療目標です。糖尿病でHbA1c10%というのは相当治療のコントロールが悪く、ずっと続くようなら治療のために入院したり、飲み薬だけでなくインスリン注射も検討する値です。

名前を見ると、見覚えがあります。A氏としましょう。何度か会ったこともあります。たしか糖尿病で治療はしていたはずです。

早速面談依頼をし、その日に会えることになりました。

私「こないだの健診でHbA1cが相当に高くてお話を伺いたいと面談をお願いしました。」

A氏「以前もあんたと話したな。糖尿はちゃんと治療してるぞ!」

私「ちゃんと治療と言っても、健診でこの数値はコントロールが悪いと言わざるを得ません。」

A氏「だからおれになんかするって言うのか!夜勤ができないと困るんだよ!」

私「産業医としてはこのまま夜勤をすると糖尿病の悪化や合併症のリスクが高いと、夜勤制限するほうが良いと事業者に意見を述べざるを得ません。」

A氏「主治医は夜勤がダメだなんて言ってないぞ。あんたが薬くれるわけでもないのに何の権利があってそんなこと言うんだ!」

私「主治医は主治医。私は産業医という立場で意見を言うんです。立場が違うんだから意見が異なってもしょうがないでしょう。権利というか、私としては事業者に意見を言わざるを得ない数値です。」

A氏「夜勤はするって言ってんだろ!」

私「いや、あなたが夜勤したいのはわかりますけど、私の意見は変わりませんよ。だって健診でHbA1c10%以上って、やっぱり何も意見を言わないわけにはいかないのでね。」

A氏「じゃあその数値が9%とかになってればいいんだろ!毎月測ってるから次持ってくるから。もういいか!」

と言って出て行ってしまいました。

終始、拒否的な反応でしたね。ご本人からしたら、なにやら権力をもった奴が自分の仕事の制限をしてると思ったのかもしれません。

産業医にはそんな権利はありませんので、その誤解を解こうとする前に出て行ってしまいました。まぁ本人に誤解されたままだろうが、私は特に困りませんが。ご本人が出て行った後の上司や総務担当者に話を続けました。

産業医の役割と権限

実際に産業医という職務にはどのような権限があるのでしょうか?

あるようで、ない

というのが答えでしょう。

労働者に健康上の問題が生じうる可能性があるときに、事業者に意見を述べます。それが残業や配置や夜勤などが要因になりそうであれば制限するという選択肢も出てくるのです。

では、産業医から「夜勤禁止」と指示が出されたときに、事業者は必ずそうしなければいけないのでしょうか?

答えはそんなことはありません。

最終的には事業者の判断で決定します。

もちろん夜勤を継続してもよろしいでしょう。産業医意見は単なる「助言」なのです。

ただし、助言を無視した挙句、結果として健康上の問題が生じた場合は、なぜ助言に従わなかったのかという説明責任が出てくるのは当然ですがね。

治療をしてようがいまいが今の結果が悪いんだから意見が変わるはずない

もう一つ、A氏が勘違いをしていることに、「ちゃんと通院してるし、治療もしている。」ということです。

それは、産業医としては、「治療はうまくいってないようなので、主治医と相談してください」としか言いようがないんですね。

結局、本人が治療してようがしてまいが、今の健康状態が夜勤で悪化しそうなので意見述べてるので、「ちゃんと通院してる」のに良くなってないのは本人が悪いのか、主治医が悪いのか、はたまた誰も悪くないか、わかりませんが、私の事業者への意見とは無関係ですよね。

(A氏は自分で「ジュースとか飲んじゃうからかな」とか言ってましたが。。。)

私はいつも企業に言いますが、

「ガンだろうが、うつやらメンタルだろうが、生活習慣病だろうが、どんな病気でどんな薬飲んでようが関係ない。就業に支障があるかないか。そのまま就労状況継続して悪化しないかどうか、が大事。ちゃんと働けてる(健康上の問題が生じない)のに病気のこと持ち出すのは差別に近い。」

今回の件は、上記意見の視点を変えてるだけで内容は一緒ですよね。

このまま夜勤という勤務形態を継続すると健康上の問題が生じる可能性が高くなる。

ということなので、意見を言わざるをえんでしょう。

具体的には、糖尿病の悪化による合併症で命に関わることもあるし、ご本人が大変になるだけではなく、就業中に生じれば労災につながりかねないし、同僚にも影響を及ぼす可能性がある。

さて、このように話をしていると、

「このままだと大変なことになる!」

と思われてしまうんですが、正確に言うと、

「大変なことになってしまう可能性がちょっとだけどあるし、そうなった場合には事業者は安全配慮義務というのに問われてしまうので、今から対処しないといけませんよ」

ということです。

では、本当に私の言うことは妥当性があるのでしょうか?

その判断の妥当性はあるのか??

私の言うことを聞かないと大変だぞ

と言ってるつもりは毛頭ないのですが、そのように受け取られてしまうことはありますね。

夜勤制限というのに限らず、産業医の言う就業制限というのにどれほど妥当性があるのか。

臨床医学と違って、産業医の就業判断にははっきりとした線引きはありません。

これがなかなか難しいところではあります。

一つ、ある程度客観的な報告書があります。

厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業) 分担研究報告書
健康診断の有所見者に対して、健康管理を行う事を目的とした、 産業医による就業上の意見に関する実態調査、およびコンセンサス調査

に、以下の結果が出てます。

3年以上産業保健に携わってる医師85名からのアンケート調査で

「HbA1cは10%以上から就業制限をかける医師が最も多かった(62.3%)」

ということです。

さらには夜勤自体が糖尿病を悪化させるという研究もあり、私の意見は偏見ではなく、一定の妥当性があると主張しました。

 

さて、今回の案件、ご本人が出て行っちゃいましたが、結論としてはこうなりました。

・血液検査結果を会社に提出。HbA1cが10未満なら経過観察。

・もし結果提出なければ故意に不利な情報を隠匿してると考え、夜勤制限。

・現場としては急に労働力が減るのが困るというのであれば、しばらくは人数調整などの関係上、すぐに夜勤制限までしないで経過観察という事業者判断もあるでしょう。その場合でもご本人に糖尿病を良くするように注意を促してください。

上記を、今はA氏は頭に血が上って聞く耳持たないでしょうから、後程、上司からお伝えください。と説明して終了となりました。

まとめ

今回、産業医として意見を述べたところ、ご本人から強い反発にあいました。

ご本人の言い分もわかりますが、私は現状を事業者に説明するだけなので、私にどうこう言ってきたところで現状が変わらない限り何も意見を変えようがないんです。

確かに産業医の意見というのは明確な線引きがなく難しいところですが、一応妥当性あるだろうという資料も提出しましたので、あとは事業者判断で対応してください。

というようなことが産業衛生の現場ではよくあって、ご本人も事業者も大変だなぁと思いながら帰路についてます。

 

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