クルーズ船が新型コロナで足止め!元船医が解説します

こんにちは、くらげプロです。

連日、新型コロナウイルス感染についてのニュースが多いですね。

ちゃんと情報を得て判断できる医師であれば、慌てふためくような病気ではないだろうと思うのですが、ニュースはセンセーショナルに騒ぎ立てている印象があります。

そんな中、2月3日にイギリスのクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」に乗船していた乗客1人が新型コロナウイルスに感染していたことが明らかとなり、同クルーズ船の横浜港での乗船手続きが延期され、検疫されているとのニュースが流れました。

そして、翌日の4日朝に医療関係者向けメディアであるm3.comの担当者さんからメールがありました。

 

「クルーズ船が新型コロナウイルスの感染で入稿できないという事態なのですが、先生の知見を書いていただくのはいかがでしょうか?」

 

私は以前船医をやっており、m3.comで「船医への挑戦がその後の生き方を決めた」という連載をやっていました。そして、今は旅行医学医として「旅行医学の魅力にはまる」という連載をしております。

まさに、今回のクルーズ船での大規模検疫という事態を解説するのにぴったりと白羽の矢が立ったのです。

即日書き上げ、校正されて5日にはサイトにアップされています。

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こちらは会員しか読めないので、以下に記事と少し修正・追記したものもアップします。

 

船の上は感染症の流行に注意! 容易にアウトブレイクする環境に立ち向かう

 ダイヤモンド・プリンセス号は乗客2666人と乗務員1045人、あわせて実に3700人を超える人を乗せて移動していました。まさに動く街のようです。

 しかし、いくら豪華客船とはいえども、洋上生活は集団として隔絶され、共同生活をしているという環境です。

 旅行医学の名著である『Travel Medicine(第2版, 2008年)』には以下のように書かれています。

 

「The semi-closed and crowded environment of cruise ships may allow for increased person-to-person transmission of respiratory viruses.」

 

つまり、ひとたび感染症が発生すれば人から人に伝播しやすく、容易にアウトブレイクを引き起こしてしまう環境と言えます。

実際の例として、2000年にクルーズ船でインフルエンザのアウトブレイクが起き、1119人中310人がインフルエンザ様症状となり(報告されているだけでも)、40人が入院隔離、2人が亡くなるということがありました1)。しかも、1/3の乗客はインフルエンザワクチンを打っていたにもかかわらずです。

私自身が船医をやっていた時にも乗客内で嘔吐・下痢が流行したことがありましたが、即座に船長をはじめ幹部で会議が開かれ、喫食調査や症状のある人の受診勧奨、手洗いの励行などの指示がでました。一気に船内全体が緊張感をもった記憶があります。

 

中世より続く感染症との闘い 船への検疫体制とは

 

このように感染症のリスクと隣り合わせの客船ですが、国際的なルールや国内のルールにより検疫体制がしかれています。

実際に船舶では大量の人や物の移動とともに他の土地や国に疾病を拡大する側面もあるため、中世以来、感染症の伝播を抑制しようとする試みがなされていました。1世紀以上前には船舶輸送の衛生面に関する国際規則が設けられていたのです。

現在、感染症の拡大に対しては、WHOに採択され改定を重ねている国際保健規則(IHR2005)に196か国もの国が批准し法的拘束力を有しています。

このIHR2005は2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)がアウトブレイクを起こしたときの経験より、課題に対応するために新たな枠組みが検討されたものです。今回の新型コロナウイルス感染症もIHR2005に準拠し対応しています。

 

1月30日に世界保健機関(WHO)事務局長は、IHR 2005緊急委員会の助言を受けて新型コロナウイルス(2019-nCoV)の感染拡大に対する「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 (PHEIC)」を宣言しましたが、
 
PHEICはIHRで定められたもの 
で、
PHEICの宣言に伴い、WHO事務局長はIHRで規定された保健上の措置に関する勧告を各国がとるように求められます。
 
例えば、IHR6条には『通告』というのがありますが、
 
自国領域内で発生した国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態を構成するおそれのあるすべての事象及びそれら事象に対して実施される一切の保健上の措置を、世界保健機関に通告しなければならない。 

これによって自国内で発生した事象を評価し、検証されるということです。

 

また、国内法としては『検疫法』というものがあり、その目的は「(第1条)国内に常在しない感染症の病原体が船舶・航空機を介して国内に侵入することの防止と、船舶・航空機に関する感染症の予防に必要な措置を講じること」です。

必要に応じて、隔離、停留、室内の消毒等の防疫措置を行います。

検疫の種類は臨船、着岸、無線とあるのですが、今回のダイヤモンド・プリンセス号は臨船検疫です。

船舶を検疫区域に停船させ、検疫官が乗船して検疫を実施し、問題がなければ入港を許可するものです。逆に言えば、問題がないと明らかになるまで入港できません。

船上に限らず、一人一人の手洗いや咳エチケットといった標準的感染予防法が大事です。今回の新型コロナウイルスの感染が、拡大せずに早く収束することを祈っています。

<参考文献>

1)A large outbreak of influenza A and B on a cruise ship causing widespread morbidity Brotherton, et al .Epidemiol. Infect.(2003), 130, 263-271

2) WHO Guide to ship sanitation. 3rd ed. Japanese version © Ministry of Health, Labour and Welfare 2011厚生労働省医薬食品局食品安全部企画情報課検疫所業務管理室

スピード勝負の記事でもしっかり校閲してくれてます

上記が記事と少しだけ修正・追記をしたものですが、時事的なことだったので、私も無理して一気呵成に1日で書き上げてm3.com担当者に送りました。

その後、校閲されて、再度こちらが編集内容をチェックして5日にはアップされました。

普段の連載と違い、編集点のコメントが荒く、

「これのファクトチェックお願いします」

「OKです」

と、担当者間のやりとりが残っていました。

もちろん普段の連載記事も編集されてるのですが、

「これは~~でいかがでしょうか?」くらいなので、ファクトチェックのことが記載あるのは急いでアップするために編集者が頑張ってるのがそのまま残ってしまってたのだと思います。

もちろん、記事には正確性をもたせるためにファクトチェックをするのは当たり前なのですが、より信頼感が増しました。

 

さて、冒頭に述べたように、この新型コロナウイルス感染はそれほど慌てふためくものではありません。もちろん、気は抜けませんが、しっかりと標準的予防法をしていればインフルエンザほどの再生産率と致死率なのではと考えられます。

みなさま、手洗いを徹底しましょう。

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