産業医って必要? Yahooニュースへの反論!

こんにちは、くらげプロです。

みなさんは「産業医」ってご存知でしょうか??

産業医とは会社と契約している医者なのですが、近年産業医の在り方が問題となることが度々あります。

“ブラック産業医“などと批判され、会社の従業員の解雇に加担しているというのです。

そして、9月13日にこんなYahooニュースがでました。

不当な解雇や復職阻止といった企業側の動きに、産業医が加担しているのではないか。そんな疑いを抱かせるトラブルが増えている。

これは意図的に産業医に悪印象を付ける悪意のある記事です。

それぞれの小見出しも煽情的であり、悪意は明らかです。

この記事を書いた藤田和恵氏という記者は、問題意識があるのはいいですが、バランス感覚を欠く一方的な論調ですね。

私は、産業医を10年近く、計10社以上やっております

真面目に誠実に産業医をやってるので、はっきり言ってこの記事には腹が立ちますが、ある程度しょうがないと思うところもあります。

それはなぜか。

産業医というものを、契約している事業者どころか、医師ですらわかっていない人が多いからです。

なので、勘違いしている事業者と産業医によって不幸な事例は起きてしまいます。

まぁ、ましてやちょっと関係者に話を聞きに行って文章にする、いちフリーランスジャーナリストがわかるわけがないでしょうね!

産業医の在り方とは何か??

今回、産業医についてまとめつつ、このYahooニュースの記事内の文章と実情を照らし合わせて説明していくので、ぜひ様々な方に見ていただきたいです。

産業医って何?何社も契約する産業医:Yahooニュースへの反論1

『従業員が50人以上の企業は産業医を選任する義務がある』と、労働安全衛生法という法律で定められています

では、産業医って何?普通の医者じゃないの?

ということですが、産業医になるには医師であり、かつ以下の要件が必要です。

・日本医師会の所定の研修を受ける(50単位)、産業医大の研修を受ける(1週間)
・産業医科大学という医大の卒業生
・労働衛生コンサルタントの資格を有する

ということです(他にも資格要件はありますが)。

私は、医師会の研修を受けて産業医となり、後に労働衛生コンサルタントという国家資格を取りました。

産業医は何をしているか?これも記事内の文章で端的に表されています。

「労働者の健康維持や適切な職場環境などについて、専門的な立場から助言・指導すること」

では、どれくらいの産業医がいるか?

約9万人、実働しているのは3万人

と言われています。(厚生労働省資料:日本医師会産業保健委員会からの答申の推計)

ここまでは、記事内にも書かれていますね。

では、ここから実情を述べます

産業医を選任する義務のある従業員50人以上の企業ってどれだけあるか、ご存知でしょうか??

事業場数 164,345 (平成22年労働安全衛生基本調査)

です。

わかりますか??

圧倒的に産業医の数(実働)が足りなく、掛け持ちしなきゃいけない状況なんですよ!!

それを、

10社以上もかけもちして、高額な報酬を得ている。高級なスポーツカーで通勤している。

などと産業医の印象を悪くするように煽情的に書く必要はない。

さらに、北神弁護士という人が話をややこしくしているのですが、

そもそも弁護士さんの方が何社も顧問契約して高給とっとるやないか!

って話です。

そして、弁護士さんと違って、事業所が産業医契約しなければいけない義務は法律で定められており、しかも産業医が足りてない。

掛け持ちせざるを得ない状況であり、この実情は制度的な事情から生じているんです!

ここに全く触れずに、何社も掛け持ちしている産業医が悪いような書き方は、冒頭で指摘した「バランス感覚を欠いている一方的な論調」というのがわかりますでしょう??

産業医が会社と結託??:Yahooニュースへの反論2

Yahoo記事の冒頭の事例は、産業医業務というものを勘違いしてる事業所と産業医が組んでしまった不幸な事例です。

産業医は労働者と事業場に対してどちらからも中立・公正な存在です。

とは言っても、確かに事業場から報酬をいただいています。

しかし、我々産業医が会社側におもねる必要なんて全くないんですよ。

おもねろうがおもねるまいが、我々の意見は所詮「助言」です。

我々がどう言おうと命令を下すのは事業者です

記事内のこの文章

「『休職しろ』『異動は無理』なんてほとんど業務命令です。産業医にそんなことを言う権限、あるんですか?」

権限なんて、ないんです!

この事例の従業員が不満を言うのはいいですよ?それを記載されるのはしょうがない。

でもライターは産業衛生学会(私も所属してます)にまでインタビューに行ってるんでしょ?

聞けばすぐわかりますよ。

決定を下しているのは事業者なので、業務命令に意見があるなら事業者を訴えてください。

例えば、産業医の意見を聞かないで、事業者が別の決定をすることも問題ありません。

もちろん、どのような理由でそのような決定を下したのか説明責任は出てきますが。

しかし、この不幸な事例のように会社が産業医の意見を盾に、ということは想像つきます。

ただ、実情を言いますと

産業医が主治医意見に従いすぎて、会社が困っている事案の方がはるかに多いんです!

先ほど述べた産業医の数の統計、9万人、実働3万人ってどんな医者がやってると思います?

ほとんどが地域の開業医です。なので、産業医は内科医が多いんです。

『開業医なので医師会にも入っているし、講習だけ受けて資格は取るけど、残念なことに産業医という視点が欠けていて、「ただ自分のクリニックに健診に来てくれればいいや」』

という、産業医が集客のための手段になっていることが多く、産業医活動に全く熱心じゃありません

そんな医者が会社におもねるわけはなく、他科の医者の方が重要です。

なぜなら、毎月の(開業医の収入に比べれば)わずかな産業医報酬なんかより、近隣の他科の先生と良好な関係を維持するほうが得に決まっているからです。

一番困っている事例としてはこんなことがあります。

メンタルで休職中の従業員が主治医からの「半日勤務などの短時間勤務、労務負荷の無いような職務なら復職可能。」の診断書を持ってきた。

この会社には短時間勤務などの就業規則項目はないし、人事担当者は「労務負荷の無い職務とは何だろう?」と困って産業医に尋ねるが、

メンタルのことはよくわからないし、主治医の言うようにやってください。」とのつれない返事。

人事担当者はとにかく主治医の診断書の通りにさせるよう、現場の上司に伝えるが、上司もよくわからず仕事を割り振れない。

結局、この従業員は来社しても机に座っていれば良いと言われ、居眠りをして午後には退社。周囲の従業員も復職当初は協力的だったものの、2か月を経過する頃には「いつまであんな調子なんですか!」と上司に、上司は人事担当者にクレーム。

人事担当者は困り果て、産業医に尋ねるも、「専門の医師が言うのだからそのようにしてください。」との返事。

現場はモラルハザードの状態となる。

これは、事業者が「医療的なことはわからないから産業医に聞くしかない」という産業医というポジションに対する勘違い。この産業医も「他の医者に反対意見なんて言えないよ」という臨床医目線でしか考えることができない医者。

こういう事例の方が現場では圧倒的に多いでしょう。

産業医は病気の診断はしない!あぁ勘違い甚だしい:Yahooニュースへの反論3

最近の労働衛生はメンタルヘルスが一番の悩みなので、精神科産業医を探す事業者もいます。

この記事でもそうですが、「他科の医者だからメンタルを診れない」と考えている事業者も産業医も多いです

しかし、これは勘違いも甚だしいのです。

なぜなら、産業医は診察も診断もしません!

なので、「産業医面談」とは言っても、「産業医診察」とは言わないでしょう?

事実、我々医師はほぼすべての人が医師賠償責任保険というものに入っていますが、産業医業務は診察ではないので業務中の賠償問題には保険は使えませんでした。(最近数社の保険会社で適用されてきました。)

私も以前はある学会の医賠責保険に入ってましたが、産業医業務に適用されないので、適用のある民間医局の医賠責保険に切り替えました。

これは、事業者も産業医自身もわかっていないことが多いです。

では、なんのために従業員と面談をするのか? 

「なんらかの業務上に支障のある労働者に対して、その支障が健康上の理由かどうかを判断する。また、健康上の問題が生じないように対策する。」

例えば、私も実際、契約している会社の人事担当者から

人事「○○という社員がいて、メンタルなのかどうか診てほしい」

と言われることがありますが、必ず、

私「ではどのような業務上の支障があるのですか?

と尋ねます。

その質問に対して、

人事「いや、朝の挨拶がなかったりぼーっとしていることが多いらしくて。」

など、あやふやな返答だと、

私「業務中の連絡や、返事はしてるってことですか?それでは業務上の支障じゃないですよね?仮に挨拶がないというのが職場内の円滑なコミュニケーションを乱していると判断するなら、上司は朝はみなにちゃんと挨拶しようと適切な指導を行いましたか?

と答えます。

相手がメンタル疾患だと思うと急に何もできなくなる同僚や上司は多いのですが、

適切な業務上の指導や注意はしっかりしていいんです!

それでも明らかに変とか、指導ができないような様子、と言った場合に面談をする。

逆に言えば、

ちゃんと働けている人に対して、「メンタルかもしれない」なんて理由で呼び出すなんて差別も甚だしいでしょ!?

どんな病気だろうが、薬を内服してようが、きちんと働けているなら(周囲に不安を感じさせないということ)、個人の健康問題に干渉するなんておかしいですよ。

そのように説明し、適切な指導をしてもどうにも業務に支障がある(指示に従わない、遅刻・早退、欠勤が多い、ミスが多いなど)。

産業医面談というのはそれが健康上の問題に起因するものなのかどうか、本人に事実関係を確認するわけです。

上司、人事、本人の主張が平行線だと、本人の家族を呼ぶこともあります。

そして業務上に支障がある理由として精神的な可能性があると判断すれば、その可能性を診断してもらうため病院受診を促します

これが、記事内で産業衛生学会の斎藤医師も、NPO法人東京労働安全衛生センター事務局長飯田さんも述べている

「産業医が精神科領域の専門である必要はない」

「産業医に求められる資質は、、、常識に基づいたバランス感覚です。」

「求められることは“協力”。。。肝心なことはさまざまな関係者から情報を収集し、公正中立な判断をしようとしている産業医を孤立させないことだ。」

という意見の本質です。

私は精神科産業医の知り合いも幾人かいますが、面談の場で診断はしません

別の病院を受診させて診断をもらってます。

主治医と産業医は、患者(従業員)に対する立場が違うわけで、当然なんです。

病院と受診する患者は医療契約が暗黙に締結されてますが、産業医と従業員は直接的な契約関係にありません。

これが実情です

産業医と主治医の意見が異なることはよくある!

主治医と産業医の立場の違いのため、意見が食い違うことは普通にあります。

私も、メンタル疾患で休職している方が主治医の復職許可の診断書を持ってきて復職可否面談をしたときに、本人と面談するとよくこんなことがあります。

・昼にも数時間は眠気がある。毎日昼寝をしている。

・朝に早く起きられず、毎朝就業開始時間より遅い9時起きである。

・業務の中でも特定の業務内容はできない。

このような状態であると、休職事由が消滅しているとは判断できず、療養延長と判断することがあります。(休職期間が満了になる場合はより慎重に判断します。)

だって、

働けるって言うなら、生活リズムくらい整っててちょうだいよ!って常識でしょう?

ちなみに、厚生労働省の出した「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」という資料には、以下のような記述があります。

主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。

主治医は本人の最大の味方ですので、本人が「復職したいんで診断書書いてください」って言えば書いちゃうんです。(無理でしょって書かない主治医ももちろんいます。)

それはそれでいいと思います。しょうがないというか。

でも産業医としては、「ちゃんと組織や社会のルールに則るかどうか」って判断のハードルが違うんです。

ですので、記事内に記載のある、北神弁護士が厚生労働省に申し入れたという項目1

「復職の可否について産業医と主治医の判断が異なった場合、産業医が主治医から十分な意見聴取を行うことを法令で義務化する」

って、全くわかってないな と。

主治医の方が「本人がどのような生活をして、どのような職場に戻るのか」理解してないまま診断書を書くことが多いんです。 これが実情です

項目2番目も3番目も、私の記事を見ると的外れだとわかるでしょう

まとめ

今回、Yahoo記事について産業医の実情を交えて反論を行いました。このYahoo記事のように不安と不満と産業医に対する不信だけ露わにして、事実について伝えないのはフェアじゃない。

私は、法律や裁判例を基本に考え、また労働法に精通した弁護士との勉強会を重ねて、産業医の職務を行っています。

さて、記事内の北神弁護士の発言

「産業医への信頼を確保するためにも、何らかの制度が必要なのではないでしょうか」

こちらに関して最後反論して終わりましょう。

“何らかの制度”ということは全く必要ありません。

しかし、今の産業医制度をわかっていないのは、残念ながら事業者であり、臨床医の片手間にやってる産業医自身でもあります。

制度が必要なのではなく、悪用する人を取り締まるという当然のことをすればよく、大多数の誠実な産業医を悪し様に記事にすることではありません。

Yahooニュースの事例はパワハラとして判断し、法的に対応すればよいだけです。

以上です。

ブログランキング参加してます。

にほんブログ村 病気ブログ 医者・医師へ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする