抗菌縫合糸の効果はない?

こんにちは、くらげプロです。

手術において、術後の感染( surgical site infection:SSI )という合併症をいかに減らせるか、ということは大きな課題です。

手術の歴史は感染との戦いでもありました。感染をいかに抑えるかは手術の結果に大きく関わります。様々な対策により、現代でもかなり少なくなってきているとはいえ、一定の割合で起きてしまいます。

10数年前から抗菌縫合糸というのが出てきました。

手術で閉じるときはいくつかの層ごとに縫っていきます。その中縫いは溶ける糸を使うことが多いのですが、溶けるまでに菌が増えて感染してしまうことがあります。

この糸に抗菌成分を混ぜることで感染を防ごうというのが、抗菌縫合糸です。

こりゃー、効果あると思いますよね?

確かに、今までは研究でも効果があるという結果が出てました。

しかし、昨年(後述しますが実は今までもたびたびありました)、それが意味がなかったという研究結果がでました。

今回は抗菌縫合糸というとてもマイナーな話ですが、「これはいいはずだ」という思い込みを疑ってかからなければいけないという良い例です。

そして、結局は『費用対効果』があるかどうかの話になります。

結論は、「もっと研究をしないとわからないけど、疑ってかかる必要がある。」です。

お時間のある方は以下のうだうだ言うのにお付き合いください(笑)

抗菌してるんだから感染しなさそうだけど…

「抗菌縫合糸は手術部位感染低減効果がなかった」

と、第31回日本外科感染症学会で報告がありました。


抗菌縫合糸を用いた消化器外科手術後のSSI低減効果を検証するための二重盲検ランダム化比較試験(RCT)を実施。

腹壁閉鎖に抗菌縫合糸を使用する群としない群に割り付け。1013例をintention-to-treat解析の対象とした。上部消化管297例、肝胆膵172例、小腸30例、大腸495例、その他19例。

SSI発生率は抗菌縫合糸群で6.9%(35例)、対照群5.9%(30例)で、有意差はなかった(95%CI 0.686~2.010, P=0.609)。

実はこのような抗菌縫合糸が意味がなかったとする研究結果は今までにもありました。

しかも、Lancet( 2014 Jul 12;384(9938):142-52 )やAnnals of Surgery (2012 May;255(5):854-9. )といった一流論文誌です。

しかし、2017年のアメリカ疾病対策センター(CDC)ガイドラインの改定でも抗菌縫合糸は弱いながらも推奨されています。

当然それにはRCTなどの研究を集めて、メタアナリシスをやったうえで有意差があったとの判断なのですが、うーん、ここまで意味のあるなしで反対の結果がでますかね?

メタアナリシスというだけで完全に信用しないで、精査が必要になってくるでしょう。

さらには、

一般的なSSIの危険因子(男性、BMI25以上、喫煙、糖尿病、腎機能異常、ステロイド・免疫抑制剤使用、術前化学療法、悪性疾患、貧血、低アルブミン血症、など)いずれにおいても、抗菌縫合糸が優れるという結果はなかった。

とのことですから、よりSSIが起きそうな人で効果が出てくれないと、意味ないですね。

しかも、逆に悪いかもしれないという結果

もう一度結果出しますが、ちょっと驚きますね。

SSI発生率は抗菌縫合糸群で6.9%(35例)、対照群5.9%(30例)で、有意差はなかった(95%CI 0.686~2.010, P=0.609)。

これ、よく数字見てください。抗菌縫合糸群の方がSSIが多い傾向なんです。

95%信頼区間でも1以上の方に多めに振れてます。

やはり、P値だけじゃなく、ちゃんと95%信頼区間出さないといけません。

医療経済的な観点から

抗菌縫合糸は通常の糸に比べると1割ちょっと高い品物です。

わずか1割ちょっとの価格差ですが、これが日本中、世界中になると膨大な金額になります。

費用対効果が果たしてあるのか、考えないといけません。

SSIサーベイランスデータによると、2007年より2016年までの1,487,378例のすべての術式におけるSSI発生率は約6%である


厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業

さらに、SSIに罹った場合の費用

後ろ向き研究では、SSI が腹部手術の 2006 年から 2008 年の間の入院期間および費用に及ぼす 影響も評価した。全体的に、術後平均入院期間は 20.7 日延長し、平均医療保険の支出は SSI 患者で 8,791 米ドル増大させた。

厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業

SSIになってしまうと、膨大な費用がかかってしまうことがわかります。

もちろん患者さんの苦しみはお金で換算できるものではありません。

医者としては「わずかでもSSIを減らせるのであれば、使いたい(使ってもマイナスなことはないだろう)」という思考になるのは当然です。

医療費に直接かかる部分なので、国がしっかりと検証したほうがよいでしょう。

まとめ

手術に関連する合併症である感染(SSI)を防ぐことは大切です。

「抗菌縫合糸」はSSI防止に一役担っていると思われていますが、その効果に疑念を抱く研究結果もあります。

一つの価格差はわずかですが、「やらないよりやった方がいいだろう」というような安易な考えで使用していかないで、精査することが必要と考えます。

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